Jポップの日本語

流行歌の歌詞について

童謡から松田聖子「Rock'n Rouge」まで~吃音ソング

1-1 ここ数年、吃音に関する一般向けの本が立て続けに出て、しかも話題になった。『どもる体』(伊藤亜紗、医学書院、2018年)、『吃音:伝えられないもどかしさ』(近藤雄生、新潮社、2019年)、『吃音の世界』(菊池良和、光文社新書、2019年)などがそ…

かぐや姫「神田川」~50年前の切断〜フォークソングの日本語

1 私が大学生だった頃はバブル景気真っ只中の東京で、吉祥寺や世田谷に住んでいたが、いずれも大家さんの自宅の一部を改造したような安アパートで、四畳半で風呂なし、共同便所で家賃3万円だった。 予備校時代はバブル直前の時期で立川に住んでいた。駅南…

世界の構築性 佐良直美「世界は二人のために」、小坂明子「あなた」~君僕ソング(その9)

9-1 父■〈僕〉と〈あなた〉はセットで出てきても存在論的に対等ではないことがある。ちょっと時間をさかのぼることになるけど、僕が生まれた1967年に佐良(さがら)直美という人がデビューして、「世界は二人のために」(作詞、山上路夫)という歌が大ヒ…

Uru「あなたがいることで」だまし絵の歌詞 ~君僕ソング(その8)

娘□これまで読んできたフォークとかニューミュージックとか「ルビーの指環」とかって4,50年も前の歌でしょ。最近の歌では人称代名詞はどうなっているのかな。このところ、Uru「あなたがいることで」(作詞、Uru、2020年)が好きでよく聞くんだけど。 Uru…

松本隆「ルビーの指環」のフェティシズム ~君僕ソング(その7)

7-1 松本隆は人称代名詞を使いたくない 娘□松本隆は人称代名詞を好まないって話をちょこっとしたでしょ。それが気になってるんだけど。 父■ああ、「詩人派」のところね。「君が」とか「僕は」だったら、まだ3文字3拍で済むけど、「わたしの」「あなたは…

小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」の謎 ~君僕ソング(その6)

6-1 父■オフコースを解散してソロになった小田和正は特大ヒットを放った。それが「ラブ・ストーリーは突然に」(作詞、小田和正、1991年)。 小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」歌詞→ https://j-lyric.net/artist/a04a641/l00330a.html 娘□タイトルの…

海援隊「贈る言葉」「人として」の超越的視点と自己啓発~フォークソングの日本語

0 武田鉄矢の二つの貌 「Jポップの日本語」と題しながら、70年代フォークに言及することがよくあるので、この際、「フォークソングの日本語」と括りなおして書いてみることにした。 なぜ「70年代フォークに言及することがよくあ」ったのかというと、フ…

オフコース「YES-YES-YES」「Yes・No」「愛を止めないで」~君僕ソング(その5)

5−1「YES-YES-YES」 娘□オフコースの他の歌はどうなのかな? 父■じゃあ僕が好きなところで「YES-YES-YES」(作詞、小田和正、1982年)。間奏でクラクションの効果音が入るのが洒落ていていいんだよね。きれいにまとまっているだけでは物足りないと思ったの…

オフコース「さよなら」~君僕ソング(その4)

4−1 父■オフコースを紹介するつもりが、だいぶ回り道をしてしまった。 娘□えー、今のは回り道だったんだ。 父■オフコースで一番ヒットしたのが1979年の「さよなら」(作詞、小田和正)。12月に発売されて、歌詞の内容と季節がマッチしていたのもよかった…

オフコース「言葉にできない」〜君僕ソング(その3)

父■「あなたと私」の歌詞に話を戻すよ。フォークでもうひとりというか、グループなんだけど、取り上げたい人がいて、オフコース。小田和正がいたグループだって言えばわかるかな。デビューしたのは1970年だけど、テレビにも出なかったせいか、なかなかヒット…

さだまさし「道化師のソネット」を読む〜ピエロの菩薩行

(概要)歌詞に3回出てくる〈小さい〉という言葉は、個々人の人生における無力さを表している。ピエロは利他行で人を救うとともに自分も救われることを望んでいる。 1 位置づけ 「道化師のソネット」は、さだまさしの人気がピークを迎えていた1980年に発表…

伊勢正三「22才の別れ」、荒井由実「卒業写真」、菊池桃子「卒業」〜君僕ソング(その2)

2−1 父■〈貴方は貴方の道を 歩いてほしい〉というのは、言い方を変えれば、「あなたはあなたのままでいてほしい」ということになる。 娘□「あなたはあなたのままでいてほしい」と言われても、自分をはっきり持っている人はいいけど、ほとんどの人はそう言…

松山千春「銀の雨」「旅立ち」〜君僕ソング(その1)

1−1 父■このあいだ松山千春「銀の雨」(作詞、松山千春、1977年)を久しぶりに聞いたんだ。なんかカッコいい歌だなと思った。でも歌詞を読んだら「ん?」ってなった。 娘□松山千春ってスキンヘッドでサングラスかけた強面(こわもて)の人でしょ。話はおも…

「イエスタデイ」と「大きな栗の木の下で」~君僕ソング(前口上)

娘□あのさぁ、ちょっと協力してほしいことがあるんだけど。 父■なに? 娘□大学の社会学の講義で、課題にレポート出されたんだよねー。 父■ふーん。 娘□なんか社会学の有名な先生で、流行歌を読み解いている本があるんだけど、それみたいに最近の流行歌を分析…

自己言及ソング

「この歌が君に届くように」とか「僕は歌い続けている」のように、歌のなかで、その歌自身を指示しているものを自己言及ソングと呼ぶことにする。今歌っている歌のことを題材にしている歌である。 こういう歌は、一つのジャンルを形成するほどたくさんある。…

あいみょんと「若者ことば」

1 あいみょんの「マリーゴールド」を聞くと、2年前のあの暑い夏を思い出す・・・てな具合に感傷にふけることができる歌は、年を取るほど少なくなっていきます。新鮮な経験というものがなくなりますから、経験に結びつく歌もなくなるのです。でも2年前の夏…

『あしたのジョー』前髪の進化論

1 正面を避けること 風変わりなものでも、いつも見ていればそのうち見慣れて、おかしさを感じなくなる。矢吹丈(ジョー)の前髪もそのひとつである。 まずは彼がどんな髪型だったのかを見ておこう。こちらである。 ジョーの髪型の特徴は2つある。 a.髪が全…

中森明菜と80年代アイドルたちの口唇期

1. アイドルたちの口ポカン~聖子と明菜を中心に 1-1 主流と傍流 YouTubeを見ていたら中森明菜のデビュー当時の動画がありまして、ずんぐりした体とあどけない顔で〈駆けるシェパード〉とか歌っているわけです。16歳のときで、来生(きすぎ)えつこ、たかお…

寺山修司の「あしたのジョー」

ラララのアトム、ルルルのジョー(その2)ジョー編 1 『あしたのジョー』の時代と人びと 1-1 『あしたのジョー』の時代 「鉄腕アトム」を作詞した谷川俊太郎と若い頃から親交があった寺山修司の「あしたのジョー」について次に取り上げよう。文化人作詞シリ…

ラララのアトム、ルルルのジョー(その1)アトム編

谷川俊太郎が書いた「鉄腕アトム」の歌詞 谷川俊太郎の詩のアンソロジー『いつかどこかで 子どもの詩ベスト147』(集英社文庫、2021年)収録作品中、一番ページ数をとっているのが「みみをすます」(1982年)である。長さもそうだが、質からいっても本作がこ…

唱歌「故郷(ふるさと)」は今でも日本人の心の原風景か?

夕飯の準備をする妻は、鍋の蓋を開けたり閉めたり、まな板で包丁をトントンしたり、右に左にボクサーのようにキュッキュッと忙しなく動いている。 私はテーブルで、コンビニの安物ワインを手酌でグラスに注いで飲んでいる。ツマミはスーパーの惣菜で買ってき…

うちの子が「うっせぇわ」に影響されて困っています

某市、某中学校で保護者面談がおこなわれた。 「先生、最近うちの娘と全然会話にならないんです。何を言っても「うっせぇうっせぇ」で、取り付く島がないんです。しかも妙なフシがついてるんです。前はこんなんじゃなかったのに。ほんと素直で良い子だったん…

YOASOBI 「夜に駆ける」逐語解読

0 「夜に駆ける」は、公式のミュージックビデオは歌声が無機質な感じで親しみがわきにくいが、「THE HOME TAKE」バージョンの方はテンポを落としており、ボーカルも演歌ふうなところがあり(実際は洋楽に親しんでいる)、哀愁が増している。ikuraの外見も黒…

若い性はどう描かれたか

1 ABCソング 〈ABCは知ってても それだけじゃ困ります アルファベットのその次は 旺文社カセットLL〉という学習機器の販促コマーショルが、私が小学生の頃(一九七〇年代)流れていた。中学生になると、この〈ABCは知ってても それだけじゃ困りま…

尾崎豊「虹」の読書会

尾崎豊の「虹」(作詞、尾崎豊、1990年)はCD2枚組アルバム『誕生』に収録された歌である。最初に聞いたときはアルバムの埋め草のような退屈な歌だなと思ったが、ライブビデオでじっくり歌う姿を見ているうちにスルメを噛むような味がある歌だなと思った。…

Official髭男dism「Pretender」V.S.King Gnu「白日」 勝つのはどっちだ!

さあ、今ここに前代未聞の白熱バトル、「Official髭男dism 対 King Gnu(King Gnu)」の一大決戦が幕を開けようとしています! 絶大なる人気をほこるビッグネームどうし、その優劣を競い合うというから聞き捨てなりません。 登場するのはお互いのファンを自…

ビスケットはなぜ増えるのか~まど・みちお「ふしぎなポケット」

1 まど・みちおが作詞した童謡で誰もが知るのは、「やぎさんゆうびん」(1939年)、「ぞうさん」(1951年)、「ふしぎなポケット」(1954年)の3つであろう。ここに「一年生になったら」(1966年)を加えて4つにしてもよい。 岩波文庫版『まど・みちお詩集…

瑛人「香水」入門~復縁ソングの現在

1 □ 瑛太の「香水」がYouTubeで再生回数1億超えたって ■ 瑛人ね □ 紛らわしいから苗字を略さないで欲しいんだけど ■ 逆に瑛太が今年から芸名を本名の永山瑛太にしたよ □ 瑛人って2世タレントとかなのか? それで苗字を隠してるとか ■ 違う。芸能界に縁のな…

ボインとおっぱい

1 新アルバム発売でテレビによく出ているあいみょんだが、先日の『SONGS』(NHK R2.9.5放送)で、「“いちゃいちゃ”って言葉を考えた人すごい」と言っていた。正確には、数年前にツイッターで呟いたことらしい。 擬音語の造語力について「そういう言葉を一番…

歌詞がねじれてますが、何か?

0 歌詞を詩のように本に印刷したとすれば、たいていのものは、縦書きなら見開き二ページ、横書きなら一ページに収まってしまうだろう。言語の作品としてみた場合、それほど短いものである。 だがその短さであっても、なぜか途中で言っていることが変わってし…